ご挨拶

研究院長あいさつ

九州大学芸術工学50周年記念事業委員会 委員長
谷 正和

 1968年に九州芸術工科大学が設立されて以来、芸術工学は2018年に50周年を迎えます。この時にはじめて使われた「芸術工学」は、科学技術と人間の最も自由な発現である芸術を融合させた学問分野を目指しました。芸工大の開学当時1960年代末は経済発展の様々な歪が顕在化した時期でもあり、社会的にも学生運動の盛り上がりとともに、変革が求められていた時代でもあります。科学技術の発展は豊かで便利は暮らしをもたらした一方で、深刻な公害も招来し、科学技術の発展に対する反省も始まりました。芸術工学の発足はそのような社会状況に対する大学からの答えでもあり、芸工大は「技術の人間化」を掲げ、技術を人間生活に適切に利用するための道筋を設計する「高次のデザイナー」を養成するとしました。
 そこから50年がたち、現在では公害問題は克服され、主要な社会的課題ではなくなりましたが、芸術工学の必要性はますます大きくなっているといえます。21世紀の社会的課題は公害から少子高齢化、環境共生、高度情報通信社会の形成へと変化していますが、人間が技術を賢く利用することによって、より幸せな生活を送るための芸術工学であるという理念は変化していません。
 さて、次の50年が経過し、「芸術工学100年」を迎えたとき、芸術工学はどうなっているでしょうか。それは芸術工学にかかわる全ての人にかかっているといえます。より多くの、より優れた人々がかかわるほど、より良い芸術工学の未来が創られていきます。したがって、より多くの優れた人が集まる、集まりたくなる教育研究の場を作っていくことが、次の50年後に向けた我々の使命だと思います。そのために、言語や文化の違いが活動の障壁とならず、その違いこそが芸術工学の前進への力となるような教育研究環境を作り、真に国際的なキャンパスになるように努めます。さらに、すべての芸術工学にかかわる人がステークホールダーとして参画する「デザイン・エコシステム」ともいえる緩やかなネットワークを形成し、大橋キャンパスをその結節点としての新たな創造の場とします。多様な能力を発揮する場を求めている全ての皆様の芸術工学への参加を心からお待ちしています。
 そのような多様な活動を支えるための「芸術工学50周年事業基金」へどうか格別のご支援を賜りますよう心からお願い申し上げます。


渾沌会会長あいさつ

九州大学芸術工学部・九州芸術工科大学同窓会 会長
鮎川 透

 芸術工学は2018年(平成30年)に50周年を迎えます。思い返せば、「渾沌」というシンボルに導かれてきた50年とも言えるでしょう。九州芸術工科大学創設の準備室長だった小池新二先生(初代学長)は、イタリア在住の彫刻家「吾妻兼次郎」氏に学章のデザインを依頼したと聞きます。吾妻氏がそこに込めた思いは「貝殻や木の年輪のように、零から焦らず急がず進歩発展を願って、4学科(当初)ともより良く成長するように」とのことだったそうです。一方で小池先生はこのマークについて「われわれの理念を象徴する学章のアイディアは“荘子”内篇座帝王第七にある渾沌王の寓話に基づいている」と記しています。
 開学以来、工学と芸術の境界領域という新たなフィールドを芸術工学として「高次のデザインの確立」を合い言葉に、私たち卒業生は手を携えながら歩みを刻んできました。そして2003年(平成15年)九州大学との統合を経てそれを「感性研究・しくみ設計・イノベーション創造」と再定義しています。これまでも、そしてこれからも漕ぎ出す海原は渾沌=カオスであることに変わりはないでしょうが、吾妻氏の学章の込められた思いはしっかりと根付き枝葉を伸ばし、ちらほらと花も咲き実を結んでいます。
 来る50周年を節目としてこれまでの足跡を見つめ、行く末を展望するのもいいでしょう。あるいは芸術工学をめざす若者達とともに、これから何が出来るのかを語り合うことも楽しみです。それらを糧に大学とともにこれからの芸術工学を育んでいきたいと思います。また会報誌「ReMember」や「Facebook」を活用してコミュニケーションも活発にして参ります。
 私たちは「デザインの力」を信じている仲間、それが渾沌会です。そのような思いで芸術工学50周年とともに、今後も皆様方の多大なるご支援を賜りますよう心からお願い申し上げます。